営業に転局して１年も経っていない頃、

御得意様にもやっと、信頼されてきた。

そんなある日、広報室室長に呼ばれた。

「こんな手紙が社長宛にきまして」と手渡された文面は、

貴社の出稿雑誌への批判であった。

抗議文を出して来たのは、「右よりの方」

室長「この件　宜しくお願い致します。」

「部長と相談し迅速に
対応させて頂きます。」

会社に戻り、部長にその旨話をすると

「弟の方だな、名前が。結構過激だ。
まあ、いくしかないな。」

「日本酒２本とハイヤー手配をしろ。酒は判ってるな？」

「はあ？」
「菊　菊だろうが。」
「そうなんだ。菊だよな。」
と内心思った。

「ハイヤーは混みますから、電車で行きましょうよ。」
と部長に尋ねると

「イーや！駄目だ。あいつ等足下をみるからな。ハイヤー」

午後一番でハイヤーで出かけたが、案の定
凄い渋滞に巻き込まれ

着いたのは、湘南海岸近く。

既に午後４時をまわっていた。

本人が戻っておらず、
おおよそ１時間待たされる。

部長が
「どういう話にするかだな。」

「でも、思想の問題ですから
どうしようもないでしょう。」

「それをいったら、おまえおしまいだよ。」と
部長の表情が何故か心もとなく感じた。

話の主が帰って来た。

「いやー。ここまで着て頂いて。」と笑顔である。

そこに部長が「御得意さんの代理できましたが、出稿雑誌に文句を言われても。
おかしいのではないのでしょうか？」

ビシッとした毅然態度に
「流石、稼ぎ頭の部長だ」と僕は羨望の眼差しで部長を視た。

笑顔が消え、目がつり上がり、
主が叫んだ！
「電話してきたのは、お前か！」

すると部長
「エ　イヤ（冷や汗）私ではございません！」
「じゃー誰だ！オイ！誰なんだ！」
部長は震えながら、指差して叫んだ！
「彼が、彼が　電　電話しましたです！」
そこで
「ハイ、私です。」

そしてここから、聞きたくもないあの、凱旋演説を聞くこととなるのだが、そこには
「脅しと賺し」のテクニックを知ることとなる。
（続く）